大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2407号 判決

三 右事実によると、控訴人は二五〇〇万円程度の価額を有する本件遺産を一二九三万八二六六円ないし一五五九万九一六六円程度の価額であると誤信して本件調停において遺産分割の合意をするに至ったものであるが、本件調停は被相続人玉崎作栄の遺産を被控訴人、玉崎ミサヲ、真下典子の三名が取得し、本件不動産及び別紙目録(7)の遺産を取得した被控訴人が遺産を取得しない控訴人に対し遺産分割の調整金として一五〇万円を支払うことを内容とするものであるから、本件不動産の価額は調整金算定の根拠となる重要な事項であり、本件不動産が二〇五〇万円程度の価額を有する(調停において控訴人は一一一二万四二五〇円、被控訴人は八四七万三三五〇円と評価していた)ことを控訴人が知っていたならば、右のような金額の調整金の支払を内容とする調停には到底合意しなかったであろうことが推定でき、控訴人の本件調停に合意する旨の意思表示は錯誤によってなされたものと認められる。右遺産の価額についての錯誤はいわゆる動機の錯誤ではあるが、遺産の価額についての控訴人の認識は調停手続の中で当事者間に表示されているから、右調停において控訴人のなした遺産分割の合意の意思表示にはその要素に錯誤があると言わざるを得ない。

しかしながら、本件調停のように相続人の一部が遺産を取得し、遺産を取得した相続人が遺産を取得しない相続人に代償金を支払う方法で遺産分割を行う場合には、遺産の価額は代償金額算定の根拠となる最も重要な事項であるから、右の点について遺産分割の当事者は適宜必要な調査を行う義務があるものと解せられるところ、控訴人は、本件調停において二名の弁護士を代理人として手続を進め、調停期日には毎回出頭し、被控訴人が提示した本件不動産の価額が相続税額算定の基礎となる評価額であって時価を正確に反映したものでないことを知りながら(右評価額が時価よりも相当低額となることは公知の事実である。)、また、調停期日を一四回重ね、その間本件不動産の価額を調査する十分な期間があるにもかかわらず、本件不動産の価額について鑑定を依頼するなど適切な調査を行わないまま漫然と総額二五〇〇万円程度の価額を有する遺産の価額を一二九三万八二六六円ないし一五五八万九一六六円程度と軽信し、しかも、万一本件遺産の時価が右金額を著しく超えることが判明した場合には調整金の支払を受け終わった段階で精算措置が講ぜられるはずであるという独善的な期待の下に、本件調停による遺産分割の合意をしたものであることは前叙のとおりである。このような事情の下においては、控訴人が遺産の価額を誤認して本件調停による遺産分割の合意をしたことについては、表意者である控訴人にほとんど故意にも比肩すべき重大な過失があったものと言わざるを得ず、控訴人の錯誤による右合意の無効の主張は許されない。

(近藤 林 渡邉)

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